こんにちは,特任助教の油谷です.

8月30日〜9月1日にかけて早稲田大学で開催された教育システム情報学会(JSiSE)の全国大会に参加・発表してきました.

本大会は第50回開催で,1974年に旧CAI学会から改名して50周年の記念すべき全国大会でした.
「学会が成立する≒学問として成立する」と捉えられるとしたら,「教育システム情報学」が学問として確立してから50年.科学というものそのものの歴史から見ればごく短いものであり,計算機システムの歴史から見ればかなり長く思えます.連綿と学問を繋いでくださった先人の方々に感謝です.

会場の現地参加者は,過年度まではコロナ禍以降には減少傾向にあったものの,今年度はかなり多く,企業出展も多数あり,基調講演やシンポジウムも豪華なパネリストをお迎えして,活気のある会議となっていました.

今回,油谷は自分が第1著者の研究発表が2件と,外部の若手の共同研究者と提案した企画セッションのオーガナイズなどを担当しました.発表は以下2件です.

  • 油谷知岐, 林佑樹, 瀬田和久:メタ学習プログラム実践データの質的比較分析, 第50回教育システム情報学会全国大会予稿集, pp.109-110 (2025) 【全国大会奨励賞ノミネート】
  • 油谷知岐, 瀬田和久, 林佑樹:達成方式アウェアな研究タスクオントロジーの検討, 第50回教育システム情報学会全国大会予稿集, pp.259-260 (2025)

1件目の「メタ学習プログラム実践データの質的比較分析」は,タイトルの通り,自分が博士後期課程の期間に取り組んできたメタ学習を促す学習プログラム(ワークショップ)を対象に,実践データを分析した結果についてお話しました.ここでは,社会科学なんかの分野で使われている分析手法である質的比較分析(QCA: Qualitative Comparative Analysis)を適用しています.この分析法は,数学的背景として,現代の主流である統計学ではなく,集合論(ブール代数学)を基盤とした興味深いものです.

2件目の「達成方式アウェアな研究タスクオントロジーの検討」は,研究活動における思考行為のオントロジカルな概念化に取り組むものです.研究活動の中で思考を深めるには何を,どうやって考えるべきか,それはなぜ効果的か,といったメタ認知知識の概念構造を明らかにしようとしています.
これまで瀬田・林(・油谷)研究室で「研究活動における思考深化支援システム群(Forest Suite)」の基礎技術として研究活動オントロジーについて検討してきた素地と,自分が博士論文としてまとめたメタ認知知識の構成支援の知見があるからこそ取り組めた研究です.

このうち,1件目の方は全国大会奨励賞にノミネートいただいており,現在審査中です.
もし良い結果をいただければ,また記事などでご報告いたします!

若手研究者仲間と共催した企画セッションは,「認知スキーマのモデリングと学習支援システム」というタイトルの企画で,支援手法の前提として,支援の対象とするヒトの思考やそのプロセスを構造的にモデリングして共有することを重視したいという趣旨の企画でした.
自分を含め4名の若手研究者が連名で企画したもので,本企画セッションだけで12件のご発表がありました.本企画セッションだけで3セッション立てさせていただき,聞くところによると近年の企画セッションで一番多くの発表者が集まってくださっていたそう.
ご参加いただいたみなさまには改めて御礼申し上げます.

本大会では,他にも,学会誌編集委員の一員として,初日のプレカンファレンス「反転が生み出す論文執筆のブレークスルー -ディスカッションベースの論文投稿ファシリテーション-」や,企画セッション「これからの学習を生み出す学習デザイン・支援システム・分析」の共催をさせていただきました.

さらに,本研究室での業績ではありませんが,企画セッションを立てた若手の研究者仲間と進めている共同研究の成果発表(下記)もあり,こちらも大会奨励賞にノミネートされています(受賞は第1著者だけなので自分ではありませんが).

  • 古池謙人, 油谷知岐, 芦田淳, 森田海, 久乗皓大:なぜ計算論的認知スキーマが今必要なのか? -システム設計意図の整合性評価・比較・共有に向けて-, 第50回教育システム情報学会全国大会予稿集, pp.315-316 (2025)【全国大会奨励賞ノミネート】

いずれも盛況のうちに幕を閉じることができ一安心です.
企画セッションの盛況さをはじめに,自分たち若手世代の存在感を少しは学会にアピールできたのではないかな〜と思っています.

自分の研究そのものに加えて,学問分野【教育システム情報学】がナニモノなのか?についての理解が深まるよい機会となりました.

研究室としてのアウトプットを一層勢いをもって出していけるよう,瀬田先生・林先生とともに尽力してまいります!

第50回 教育システム情報学会 全国大会(2025年度)